1. 視察先
平成27年7月30日(木) 福井県福井市
「一乗谷朝倉氏遺跡について」
平成27年7月31日(金) 富山県富山市
「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりについて」
2. 視察先概況
イ) 福井県福井市
福井市は福井県の県庁所在地で、人口は266,358人(平成27年4月1日現在)、行政面積は536.41㎢
ロ) 富山県富山市
富山市は富山県の県庁所在地で、人口は418,979人(平成27年3月末日現在)、行政面積は1241.77㎢
3. 視察内容
イ) 一乗谷朝倉氏遺跡について
特別遺跡として綺麗に整備されていた。
ロ) 公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりについて
富山市の都市としての特徴として、持ち家率が高い、住宅延べ面積が大きい、三世帯同居、兼業農家率が高い、豊富な水資源、肥沃な耕地、女性就業率が高い(全国7位)、高校生県内就業率が高い(全国2位)、高校進学率が高い(全国3位)、1世帯当たりの実収入が多い(全国3位)、犯罪発生率が低い、生活保護率が低いなどが挙げられる。しかし、今後の富山市を取り巻く課題は、人口減少と超高齢社会、過度な自動車依存による公共交通の衰退、中心市街地の魅力喪失、割高な都市管理の行政コスト(市街地が拡大すると行政コストは上昇)、CO2排出量の増大、市町村合併による類似公共施設、社会資本の適切な維持管理、平均寿命と健康寿命の乖離などが考えられている。
そこで、人口減少や超高齢化社会の到来など都市を取り巻く課題に対応するために富山市は、快適で持続可能な都市を実現するため、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを目指した。具体的には平成20年度にまちづくりのグランドデザインとなる「富山市都市マスタープラン」が策定された。その中で、まちづくりの理念を「鉄軌道を初めとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させることにより、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」とし、地域の拠点を「お団子」に、公共交通を「串」に見立てた「お団子と串」の都市構造を目指すこととされている。また基本方針として、①規制強化ではなく誘導的手法が基本、②市民がまちなか居住か郊外居住かを選択できるようにする、③公共交通の活性化によるコンパクトなまちづくりを推進、④地域拠点の整備により全市的にコンパクトなまちづくりを推進、とされている。
富山市では、市内の鉄軌道6路線全てと、路線バスのうち1日あたり60本以上運行されている13路線を「公共交通軸」として都市計画マスタープランに位置づけ、その鉄軌道駅から500m、バス停から300mの区域で、工業専用地域と工業地域を除く用途地域内を「公共交通沿線居住推進地区」として位置づけられている。
またコンパクトシティの考え方を住民に周知するために、平成17年度から平成19年度にかけて市長自らが市内隅々で100回以上のタウンミーティングを実施されたことのことである。
富山市が目指すコンパクトシティは、一極集中型のコンパクトシティではなく、徒歩圏(お団子)と公共交通軸(串)からなる多核型である。そうした考え方のなかで、各拠点にはそれぞれに地区センターを置くとされている。
お団子(公共交通で結ばれた徒歩圏)は、都市の顔としてふさわしい、芸術文化・娯楽・交流など多様な都市機能を有するとともに、商業的な活力や賑わいがあり、人口密度が非常に高く、市民や来街者が頻繁に行き交う駅周辺地域であるシティ・コア(都市核)と、商業・業務・居住等の都市機能を有するとともに、人口密度が高く、最寄り品の購入や医療などの日常的な生活がほぼ満たされる駅周辺地域であるエリア・コア(地域核)と、日常生活を支えるスーパー等の利便施設を有し、人口密度が比較的高く、居住系土地利用を主体とした駅周辺地域と他のコアへは容易にアクセスでき、圏域内で不足する商業、医療等のサービスも享受できる駅周辺地域であるライフ・コア(生活核)の三つのコアから成り立っている。
また公共交通が便利な地域に住んでいる市民の割合(沿線人口÷全人口)を現在の28%から概ね20年後には42%にすることを目標とされている。
コンパクトシティを実現する富山市の都市整備事業は地域拠点の活性化と公共交通の活性化のそれぞれ二つに大別される。具体的には、地域拠点の活性化として、中心市街地活性化事業とコンパクトなまちに向けた居住誘導などがあり、公共交通の活性化として、LRT(富山ライトレール)ネットワークの形成とバス交通の活性化などがある。
中心市街地活性化事業について、財政面から見た中心市街地活性化の意義であるが、富山市の固定資産税・都市計画税の地域別内訳から、市街地区域(面積比5.8%、税比74.0%)うち中心市街地(面積比0.4%、税比22.0%)と市街地区域外(面積比94.2%、税比26.0%)を算出し、「中心市街地への集中的な投資は、税の還流という観点からも合理的であり効果的」との結論を導き、グランドプラザ(まちなかの賑わい拠点として、ガラスの大屋根、大型ビジョン、昇降式ステージなどを備える全天候型の多目的広場)の整備と中心市街地活性化基本計画に基づく各種の公共投資が呼び水となった新たな市街地再開発事業や高齢者向け優良賃貸住宅建設など民間主体の市街地再開発が活性化している。
またコンパクトなまちに向けた居住誘導について、中心市街地活性化基本計画で位置づけた中心市街地地区への居住を推進するため、良質な共同住宅を建設する事業者や、住宅の建設・購入・賃貸で入居する市民に対して助成を実施しているまちなか居住推進事業や、都市マスタープランで位置づけた「公共交通沿線居住推進地区」への居住を推進するため良質な共同住宅を建設する事業者や住宅の建設購入する市民に対して助成を実施している公共交通沿線居住推進事業により誘導している。
LRTネットワークの形成について、富山港線線路路面電車化事業が平成15年5月に市長が検討開始を発表し、富山港線路路面電車化検討委員会が技術・需要・収支などを検討し、平成16年3月に市議会で予算案が承認され、平成18年4月29日に開業された。
バス交通の活性化について、市民のバスに対するイメージを変えるため、公共交通軸である幹線バス路線の中でも運行頻度や利用者の多い路線を「イメージリーダーバス路線」に位置づけ、先導的かつ重点的に新型車両の導入やバス停やパーク・アンド・バスライド駐車場の整備を行っている。また、コミュニティーバスの運営・支援や地域自主運行バスへの支援(シビルミニマム《日常生活に最低限必要な交通サービスであり1日2往復のバス等による運航》の確保《運航経費100%補助》、スクールバスを含む場合《運航経費100%》、それ以上の運行《運航経費9/20補助》)、交通ICカードの活用を行っている。
また満65歳以上の高齢者を対象に市内各地から中心市街地に出かける場合、公共交通機関を100円で利用できる「おでかけ定期券」を発行しているおでかけ定期券事業(高齢者の23.6%が利用)の効果として、1日あたり1,309歩/日の歩数増加効果があるという結果が得られている。医療費の削減効果としては、1人当たり約80円/日(1,309×0.061円/歩)、おでかけ定期券利用者全体では207,280円/日として算出されている(1歩歩くことによる医療費の削減効果を0.061円として試算《ICTと超高齢化対応の「健康都市」~Smart Wellness Cityによる健康長寿世界一の実現を目指して~筑波大学大学院 久野譜也》)。
また、都市機能の分析について、富山市ではNTTタウンページと住民基本台帳に基に商業;スーパー、医療;病院・診療所の500m施設分布と500m圏域人口までも把握されていた。
4. 私感
富山市が目指すコンパクトなまちづくりの本質的な考え方は、従来日本各地で展開されてきた拡大型まちづくりや拡大都市の否定である。今後に必ず訪れる人口減少化社会と超高齢化社会を見据え、リアリスティックな判断に基づき、具体的な問題解決手段(ビジョン)の提示を行ってきたことが、地方創生が叫ばれ、日本全国で人口減少化社会に立ち向かおうとしている現在から10年以上も前であることは驚愕に値する事実であり、他に先駆けて将来の課題を的確に把握していた証拠でもある。
しかし、全国の自治体は未だに拡大型まちづくりや拡大都市を目指している。これらの取組みは必然的に失敗を迎えるであろう。人口減少と高齢化は不可避であるからである。そして、朝来市もまた総合計画で封鎖型人口を目指すこととしている。しかし、その人口目標は計画開始後たった一年で実現できないことが判明している。
では、朝来市はどうすれば良いのか。それは拡大都市の否定であり、縮小都市の肯定である。人口減少社会と超高齢化社会の現実を受け入れ、その上で成り立つまちづくりを創り上げるべきである。そのための手段がコンパクトシティであり立地適正化計画なのである。
コンパクトシティや立地適正化計画には多くの課題や障害、理解不足による誤解が生じることになるであろう。しかし、富山市や青森市の市長は具体的なビジョンを実現するために、市民への周知や住民理解に多くの時間(どちらのタウンミーティングも100回以上開催)を費やしていた。そしてそのことはコンパクトシティを実現するためには不可欠なプロセスでもあったのである。今後において、立地適正化計画を策定する朝来市は、内容の優劣や整合性を議論する前に、住民への周知や住民理解に多くの時間を費やすべきであり、議会や委員会も、事業の是非を論じるのではなく、コンパクトシティを実現するために必要なプロセスや手法とは何かを議論して頂きたいと私は考えます。
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産業建設常任委員会管外視察報告書
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