1.各種計画・戦略との比較
i. 国総合戦略
≪期間≫
2015年~2019年
≪基本的な考え方≫
イ) 人口減少と地域経済縮小の克服
ロ) まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立
≪基本目標≫
イ) 地方における安定した雇用を創出する(地方において若者向けの雇用をつくる、2020年までの5年間で30万人分)
ロ) 地方への新しいひとの流れをつくる(東京圏と地方の人口の転出入を均衡させる、2020年までに東京圏から地方への転出を4万人増加、2020年までに地方から東京圏への転入を6万人減少)
ハ) 若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える(若い世代が安心して結婚・妊娠・子育てできるようにする、第一子出産前後の女性の就業率の向上、結婚希望者実績指標の向上、夫婦子ども数予定実績指標の向上)
ニ) 時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する(小さな拠点の整備や地域連携の推進)
≪KPI≫
イ) 対日直接投資残高を倍増(18兆円→35兆円)、サービス産業の労働生産性の伸び率を3倍に拡大(平均0.8%→2.0%)、雇用型在宅型テレワーカーを全労働者数の10%以上に増加
ロ) 年間移住あっせん件数11,000件、企業の地方拠点強化の件数を2020年までの5年間で7,500件増加、新規学卒者の県内就職割合を平均80%
ハ) 若者(20~34歳)の就業率を78%に向上、支援ニーズの高い妊産婦への支援実施割合100%、第一子出産前後の女性の継続就業率を55%に向上
ニ) 小さな拠点の形成数(具体的数値は地方版総合戦略を踏まえ設定)、立地適正化計画を策定する市町村数150、定住自立圏の協定締結等圏域数140
ii. 兵庫県総合戦略
≪期間≫
2015年~2019年
≪基本目標≫
イ) 自然増対策(出生数を2019年度で22万人(4.4万人/年)の維持
ロ) 社会増対策(人材流入増加数を5年間で25,700人=若者のしごと創出22,500人+ファミリー層の転入2,000人+壮年層の転入1,200人)
ハ) 地域の元気づくり(県内総生産は国を上回る成長率を維持、県民総所得に占める海外等からの所得の比率を高める)
iii. 市総合計画
≪期間≫
2014年~2021年(基本計画~2017年)
≪基本的な考え方≫
人口政策による地域力の向上、社会増減ゼロをめざすまちづくり
≪将来像≫
「あなたが好きなまち・朝来市」
≪重点プラン≫
イ) メイドイン朝来プロジェクト
ロ) 朝来@Homeプロジェクト
ハ) 生涯現役の場おこし大作戦プロジェクト
iv. 市経済成長戦略
≪期間≫
2014年~2023年
≪基本概念≫
「進化・挑戦する メイド・イン・朝来」
≪成長戦略の視点≫
イ) 域外マネーの獲得
ロ) 地域資源の最大活用
ハ) 雇用の拡大
ニ) 朝来市のブランド化
≪重点戦略≫
イ) 観光インパクトを活かした独自産業の創出
ロ) エコノミックガーデニングの推進
ハ) 農林産物のブランド化
≪達成目標≫
イ) 竹田城跡入込客数 350,000人
ロ) 市内観光入込客数 1,330,000人
ハ) 年間「メイド・イン・朝来」製品認定数 3品
ニ) 年間新店舗等開業数 2店舗
ホ) 年間新規創業者数・起業数 2件
ヘ) 製造品出荷額増加金額 29.5億円
ト) 年間マッチング件数 10件
チ) 年間誘致企業数 1件
リ) 岩津ねぎ出荷額 165,000,000円
ヌ) 木質バイオマス生産量 24,000㎥
ル) 市外からの朝来市への定住関連問い合わせ 100件
ヲ) 空き家バンク登録 10件
ワ) 世帯数 12,400世帯
カ) 地域ブランド調査 500位以内
v. 市創生総合戦略
≪期間≫
2015年~2019年
≪基本目標≫
イ) 朝来市を担い貢献する人財づくり(朝来市の支援制度等を活用して転入した人数128 人/年、安心して子どもを産み育てることができると感じる市民の割合50%)
ロ) 魅力ある多様な生業の機会づくり(創業件数20件、市内宿泊者数132,000人/年)
ハ) 希望を持ち、心豊かな暮らしを営めるとともに、地域間の連携による特色ある地域づくり(地域自治協議会活動への参画人数1,500人、住みやすいと感じる市民の割合76%)
≪基本的方向≫
イ) ふるさと愛の醸成などによるふるさと回帰の促進
ロ) 新しい人の流れをつくる移住の促進
ハ) 出会いから子育てまでの切れ目ない支援
ニ) グローカルな人財の育成
ホ) 産業振興と雇用促進
ヘ) 朝来市の強みを活かした観光創生
ト) 高付加価値化による農畜産業の振興
チ) 主体的な地域づくりの推進
リ) 朝来市の魅力発信
ヌ) 歴史文化遺産などを活用した地域間連携の推進
≪KPI≫
イ) 家族の世帯員数 2.66人
ロ) 地元企業就職説明会への参加者数 51人
ハ) 朝来市に誇りや愛着を持つ市民の割合 70%
ニ) 移住イベントの参加者数 111人/年
ホ) 移住・定住の相談件数 192件/年
ヘ) 空き家バンクの利用登録数 122人
ト) 移住体験住宅の利用世帯数 11世帯
チ) 起業等相談件数 40件/年
リ) 婚活事業支援件数 8件/年
ヌ) 婚活イベント参加者数 272人/年
ル) 婚活イベントによるカップル成立数 48組/年
ヲ) 出生数 250人/年
ワ) 保育サービスや子育て支援が充実していると感じる市民の割合 70%
カ) 朝来市が好きだと回答した生徒の割合 85%
ヨ) 社会人になっても朝来市に住みたいと思う生徒の割合 55%
タ) 朝来市に住み続けたいと感じる市民の割合 75%
レ) 有効求人倍率 1.1倍
ソ) 新製品・新技術件数 6件/年
ツ) 起業相談件数 40件/年
ネ) 見本市等の出店件数 9件/年
ナ) ジョブサポ相談件数 20件/年
ラ) 就業者比率 71.4%
ム) 女性就業者比率 64.5%
ウ) 観光入込客数 27,000,00人/年
ヰ) 道の駅利用者数 1,300,000人/年
ノ) 滞在人口率 1.93人
オ) 道の駅農産物販売額 340,000,000円/年
ク) 農業の振興が図られていると感じる市民の割合 50%
ヤ) 林業賃労働者数 88人
マ) 素材生産量 29,362㎥/年
ケ) 森林作業道開設延長 33,060m/年
フ) 畜産農家飼育頭数 400頭
コ) この1年間に区の地域活動に参加した市民の割合 77%
エ) この1年間に地域自治協議会が行った活動や行事に参加した市民の割合 50%
テ) NPO法人数 16法人
ア) 地域協働事業数 10事業
サ) 朝来市に誇りや愛着を持つ市民の割合 70%
キ) 伝統文化・歴史遺産が大切にされていると感じる市民の割合 67%
ユ) 観光入込客数 2,700,000人/年
2. ロジックモデルによる検討
ロジックモデルとは、上位の目標(ミッション)から事業(プログラム)の活動レベルまでの論理的つながりを視覚的に把握するためのツールであり、現在我が国の地方自治体や行政における政策評価・行政評価の改善のためにロジックモデルの活用が広がりつつある。
従来、朝来市の総合計画等において、上位目標と実施事業の関連性を論理づけるスキームでの検討はなされてこなかった。これまでの目標は、単に実施事業の積み上げでしかない結果に対して、漠然とした関連性を主張して来たに過ぎない。その当然の帰結として、アウトカムの実現と目標の達成は出来なかった。
そこで、新たな計画検討の手法として、ロジックモデルを取り入れ、目標とアウトカム等(問題・課題、目標、リソース、アウトプット、アウトカム)を論理的に関連づける必要がある。
3. 市総合戦略の目標と基本目標
今回の市総合戦略の目標は項立てをされていないので正確に分からないが、「本市における、人口減少の克服と、まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立を目指すことを目標」とされていると解される。
その一方で、基本目標は、「朝来市を担い貢献する人財づくり(朝来市の支援制度等を活用して転入した人数128人/年、安心して子どもを産み育てることができると感じる市民の割合50%)、魅力ある多様な生業の機会づくり(創業件数20件、市内宿泊者数132,000人/年)、希望を持ち、心豊かな暮らしを営めるとともに、地域間の連携による特色ある地域づくり(地域自治協議会活動への参画人数1,500人、住みやすいと感じる市民の割合76%)」とされている。
しかし、改めて市総合戦略の目標と基本目標(アウトカム)や数値目標の関連性を精査すれば、そこに論理的な関連性を見つけることは困難である。
4. 市総合戦略の問題点
先ず、朝来市が目指すべき将来像や目標が描かれていない。基本理念に書かれていることは国が示す「まち・ひと・しごと」の単なる一要素である「ひと」に焦点を当てただけで、国はそれぞれが相互に作用しあい好循環を生み出すことが重要であると考えているからこそ「まち・ひと・しごと」という3つの要素を明示している。また、基本目標は基本的方向(どのような政策を推進していくか)を収斂したものであると同時に、総合戦略が目指し実現すべき市のあるべき姿や将来像を達成するための手段でしかないのであるから、基本目標が市のあるべき姿や将来像と同一でないことは明確である。
また、基本目標には住民にもたらされた便益に関する数値目標を設定することになっており、数値目標は基本目標を達成するため本質的な要素を突き詰める必要がある。しかし、市総合戦略における数値目標は、そうなっていない。それらの根源的な問題は、基本目標の上位目標であり最上位目標である目指すべき将来像やあるべき姿をテーゼ出来ていない事に起因する。例えば、「ひと」の「支援制度等を利用して転入した数」は、限定した社会増要因ではあるが、単純な社会増要因に優先する根拠が希薄である。その一方で、「安心して子どもを産み育てることができると感じる市民の割合」は定性的目標であるが、この場合は定量的目標に置き換えることが可能である。また、「しごと」の「創業件数」と「市内宿泊者数」は、部分的に特化した数値目標でしかなく、本来は総体としての「しごと」の全体量や割合を数値化すべきである。つまり、数値目標としてではなくKPIとして記載されるべきものである。また、「まち」の「地域自治協議会活動の参画人数」について、地域自治協議会活動は区内での活動や消防団などをはじめとした地域協働活動の一つでしかなく、この場合には行政の思い入れを押し付けているだけの数値目標設定となっている。
また、数値目標は国が示す「地方版総合戦略策定のための手引き」によってもその設定が求められている。しかし、朝来市の数値目標及びKPIについては、議会の議決対象外のアクションプランに記載されることになっている。つまり、基本目標と数値目標の相関関係を検討する事が出来ない。また、議会の審議を経ない数値目標及びKPIには、市民の関与する余地がなく、間接民主主義の否定であると同時に、設定された数値については何の後ろ盾とする民主的な根拠も有していない。それは単に市組織内の目標であり、議会の議決を経ずに勝手に変更することが出来、逆説的には市民に理解を求めたり、市民に協力を求めたりすることが出来ないものである。
最後に、人口ビジョンにおける分析と、市総合戦略が必要とされる理由に、同一不可分な根拠を示し切れていない。人口ビジョンでは、人口の変化が地域の将来に与える影響について、「人口減少社会がもたらす人口構造の変化は、市の財政に大きな影響を及ぼします。生産年齢人口が減少することで、市税が減少する一方、老年人口が増加するため、老人福祉費などの社会保障にかかる扶助費が増大します。」とされている。確かに人口減少は大きな課題であると同時に、最大の要因とも言える。しかし、その結果については単に歳入歳出の変化に留まらない。つまり、人口減少により、地域経済の縮小と地域活力の衰退が引き起こされる。このことが、「まち・ひと・しごと」創生戦略が必要とされる理由である。ゆえに、人口ビジョンで正確に分析された課題が、市総合戦略においても認識されていなければならない。補足的に説明をすると、人口ビジョンにおいて目指すべき将来の方向として、「合計出生率の向上」とされているが、数値目標及びKPIにおいてさえ目標化されていないことがその証左である。
5. 結論
そこで私は下記のアウトフレームを提案する。
A) 問題認識
① 人口減少
② 地域経済の縮小
③ 地域活力の衰退
B) 目標
「まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立」
C) 基本目標&数値目標(アウトカム)
「安心して子どもを産み育てる社会」
① 出生数
「交流から始まる定住促進」
② 転入数
「健康で健やかな生涯現役のまち」
③ 平均寿命
「ともに支え合うサステナブル社会」
④ 人口構成割合
「進化・挑戦するメイド・イン・朝来」
⑤ 市内総生産額
⑥ 域内マネー循環率
「元気な里山、朝来@Homeづくり」
⑦ 市民満足度
⑧ 地域協働等活動回数
⑨ DID
D) リソース(インプット)
① 人的資源
② 財政
③ 政策
E) 前提条件
① 人的資源は、今後に縮小を余儀なくされていく。行政においては、人員適正化計画の更なる推進を求められる。そうした中で、ゼロベースでの業務の棚卸を行って事業自体を見直すとともに、更なる作業効率の向上を目指した組織のフラット化・迅速化によりフレキシブルな組織に転換を図ると同時に公務員としての自覚を持った人材が必要である。
② 財政は、今後に市税や地方交付税等の減少により更に厳しい現実が待ち受けているにも関わらず、子育て支援等の人口減少対策や固定費としてのインフラ管理費等の支出、また今後の市の発展のためには計画的な都市計画整備費等が必要となる。楽観的に歳入の増加が見込めない中で、そうした財源を確保するためには聖域なき経常経費等の削減を図る必要がある。
③ 政策は、行政が税金を市民に還元する直接的アウトプットであると同時に、間接的アウトカムでもある。したがって、政策の優劣によって市の将来が左右されると言っても過言ではない。また政策の優劣は職員の優劣と言い換えられる。しかし、現在の市組織では、人事評価制度が定着したおらず、適材適所の人事配置がなされていない。今後は、新たな実践的職員育成と選抜的人事評価制度によるガバナンスの徹底を図る必要がある。
F) アウトプット
各種事業結果
G) KPI
(ア) 家族の世帯員数 2.66人
(イ) 保育サービスや子育て支援が充実していると感じる市民の割合 80%
(ウ) 婚活事業支援件数 10件/年
(エ) 婚活イベント参加者数 272人/年
(オ) 婚活イベントによるカップル成立数 50組/年
(カ) 空き家バンクの成約件数 5件
(キ) 移住・定住の相談件数 192件/年
(ク) 移住イベントの参加者数 111人/年
(ケ) 朝来市の支援制度等を活用して転入した人数 128人/年
(コ) 有効求人倍率 1.1倍
(サ) 就業者比率 75.0%
(シ) 女性就業者比率 70.0%
(ス) 新製品・新技術件数 6件/年
(セ) 年間マッチング件数 10件
(ソ) 「メイド・イン・朝来」製品認定数 5品/年
(タ) 地域ブランド調査 500位以内
(チ) 起業相談件数 40件/年
(ツ) 年間新店舗等開業数 3店舗
(テ) 年間新規創業者数・起業数 5件
(ト) 年間誘致企業数 5件/年
(ナ) 製造品出荷額増加金額 29.5億円/年
(ニ) サービス産業の労働生産性の伸び率を3倍に拡大 2.0%
(ヌ) 域際収支 ±0円
(ネ) 移輸出額 115,000,000,000円
(ノ) 竹田城跡入込客数 350,000人
(ハ) 観光入込客数 1,350,000人/年
(ヒ) 滞在人口率 1.93人
(フ) 道の駅農産物販売額 340,000,000円/年
(ヘ) 創業件数 20件/年
(ホ) 岩津ねぎ出荷額 165,000,000円
(マ) 素材生産量 29,362㎥/年
(ミ) 朝来市に誇りや愛着を持つ市民の割合 75%
(ム) 朝来市に住み続けたいと感じる市民の割合 75%
(メ) 1年間に区等の地域活動に参加した市民の割合 80%
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朝来市創生総合戦略の考察および吉田俊平が提案するアウトフレーム
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